Torso
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登場人物紹介
ギルィ・ストーク【人名・偽称】
記憶を全て失った状態で廃棄街の共同墓地に倒れていた青年。年齢は不明だが、
見た目は二十代前半。くすんだ灰髪に曇り空色の瞳を持つ。
シルバーバレルが唯一の持ち物。非常に虚無的な性格をしており、
感情が希薄。死体装飾。鬱主人公。
第一話〜a prologue
【 3057.June.13. am2:29 廃棄街付近の路地裏
】
細く―――鋭い針が闇に光る。
鈍い手の感覚をかき集めるように注射器をしっかりと掴む。
針を腕に押し付け、ゆっくりと注射器の中の薬品を体内に流しこむ。
冷たい何かは一圧しごとに確実に血管を流れ、
微かな痛みは手の感覚を少しだけ取り戻してくれた。
重い息を吐き出しながらふと上を向くと、汚れすら判らない真っ暗な空に薄い月。
いくら探しても空を覆う暗幕には星は一つも見えず、
すぐに飽きた俺はだんだんと湧き上がってきた快楽に身を委ね、
路地裏に座り込んだまま目を閉じる。
浮かぶ光景はいつも違う。
ただ、総てがモノクロなのはいつも一緒だった。
蒼いはずの空も―――
咲いていた花も―――
自分自身でさえ―――
ただ一つ、赤だけを除いて。
総てが色を失った世界で、ただ血の赤だけがその鮮やかな色を失ってはいない。
空はどこへ消えたのか。
花はどこに散ったか。
そしてなによりも―――俺自身は。
俺はなにをしようとしているのだろうか。
いつ死んでもいいはずなのに、こうやってクスリで生きる苦痛をごまかしながら生きている。
目的もなく、希望を持つことも出来ず、償うことすら許してはもらえず。
犯した罪の意識が自分を責める。
この手と脇腹―――そして全身に刻まれた無数の罪の証。
それがどんなものか、憶えてもいない罪。
犯してしまった罪を、俺はどう償えばいいのだろう?
いつの日か、この傷が癒える日は来るのだろうか。
この濁った目で、色のある世界を見ることはできるのだろうか。
目を開けると、いつのまにか夜は明けていた。
俺はしばらく何もしないままその場に背を預け、やがて立ち上がった。
路地裏を抜け出し、誰もいない夜明けを歩く。
ふと、何気なく空を見上げる。
……相変わらず、今日も。
―――空は、昏い。