Torso



                           /記憶−Landscape〜幕間





 目醒めたとき、俺の周囲は閑散とした虚無が溢れていた。

 墓地とは名ばかりの、棄てられたガラクタと死体の山。

 それを囲むように地面に打ち付けられた、朽ち果てた何本もの十字架の群れ。

 血が乾き、肉が腐敗し、骨が覗き、それすら灰塵となったガラクタと屍躰の山の頂上で一人、 
 倒れたままの姿勢で呆と空を見上げていた。

 ただじっと、何を思うでもなく、昏い空を見上げていると、下の方から泣き声が聞こえた。

 子供。少年と、少女。

 兄妹のようにも見える二人は、泣きながらその細い腕で重たそうな木の箱を引きずっていた。

 何をしているのかはすぐに解った。

 ここは墓場だ。ならばここに来る理由は一つしかない。

 兄妹は泣きながら十字架の近くに木の箱――棺を置いて祈りを捧げるようにじっと黙祷した。

 子供の力では穴を掘ることが出来ない。
 
 かといって死体の山と一緒というのも抵抗があるのだろう。

 しばらくすると、少年は元来た道を戻ろうとした。妹が泣きながら棺にすがる。

 やがて妹は少年に慰められたのか、何度か振りかえりながらも棺から離れた。

 ……二人の幼い兄妹の姿が見えなくなったあと。

 俺はゆっくりと起きあがり、死体の山から下りた。 

 棺の側まで歩み寄り、留め金を外してふたを開ける。

 中にあったのは、やはり死体だった。

 あの兄妹の父親だろうか。

 穏やかな死に顔。

 眠っているだけのようにも見える。

 そっと死体の顔に触れる。

 そこにあるのは間違いなく死体だった。

 すでに死ですらない、ぞっとするほどに冷たい虚無で満たされたモノ。

 俺は棺から離れた。

 死体の山に戻り、死人をあさる。

 どれくらいの時間がたったのか。ともかく俺は目的のモノを見つけた。

 まだ腐敗の進んでいない、身体が損傷していない死体。

 死体の顔を覗きこむ―――目を見開いた、恐怖と絶望に満ちた顔だった。

 それでもそこにあるのは、あの父親の死体と同じ、虚無の体温。

 同じ死体。息をしない、停まった物体。あとは朽ちるだけの、ただのモノ。

 何も変わらない。同じ。同じなのに―――なぜ、こうも違うのか。

 一方は死体の山に棄てられ、一方は安らかに安置されている。

 言葉にならない嫌悪感で躰が蝕まれた。

 ―――そして。

 俺は、無造作に死体の頭を掴み寄せた。



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